第二幕、御三家の嘲笑
「桜坂、それ本当のこと言ってる?」


 私を虐めに来たんですか?と訊ねたくなるくらい、松隆くんの声は冷ややかだ。


「先生、桜坂が溺れたの、何で気付いたんですか?」

「特別な理由はないわ……。溺れてたら、水飛沫の上がり方が違うでしょう? だからおかしいと思ってよく見たら溺れてるように見えたから」

「じゃあ桜坂が溺れる前は見てないんですか?」

「そうね……」

「桜坂が溺れてすぐ気づいたんですか?」

「えっと……、桜坂さん、私が来るまでどうだったかしら……」

「さすが先生は泳ぐのが速いなあと思いました」


 まるで尋問が行われているかのような空気を和ませようとした――わけではないけれど、いつもの調子で答えると、射殺さんばかりの松隆くんの鋭い視線が飛んできた。思わず背筋が震える。


「……先生、桜坂と他の生徒との距離の差は?」

「え?」

「桜坂が溺れている間に、どれだけの生徒が二十五メートル泳ぎ終えてたんですか?」


 ゆっくりと繰り返した松隆くんの中で、答えは決まってる。私が足をつったなんて信じてない。誰かが足を引っ張ったと確信して、その証拠を掴むだけだと、その目は告げている。


「確認してなかったけど……、多分ほとんどの子は泳ぎ終えてたんじゃないかしら……」

「桜坂はどの地点で溺れてたんですか?」

「確か泳ぎ出してすぐだったから――」

「一人だけ異常に遅れて泳いでいる生徒がいたら目に付きませんか?」


 宍戸先生の言葉尻を奪って訊ねるその声が怖い。ああ、この人は敵に回しちゃいけない人だ……。宍戸先生が詰まる。


「そう……ね……」

「何か他のものでも見てたんですか?」

「そんなことはないわ。常に全員を確認しておかなきゃならないし……」

「生徒を複数の組に分けてタイムを測っていたんですよね? 泳いでおらず、タイムを測っておらずの暇な生徒と何か喋っていたんじゃないですか?」


 視線を泳がせていた宍戸先生が、月影くんの言葉で体を震わせた。決まりだな、とでもいうように御三家は顔を見合わせる。


「別に監督責任を問うつもりなんてありません。宍戸先生のところに――質問かお喋りか知りませんけど、来ていた生徒がいたんですよね? だから桜坂が溺れていることに気付かなかった。その生徒は誰ですか?」

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