第二幕、御三家の嘲笑



「なんか、月影くんは別枠みたいになってる気がするけど。桐椰くんとはよく張り合ってるイメージがあるもん」

「……そう見える?」

「見える気がする」


 こんなことを思うのは松隆くんに失礼かもしれないけれど、仮に桐椰くんの初恋騒動がなければ、私にここまで積極的に働きかけることはなかったんじゃないのかな。昨日の夜、わざわざ桐椰くんを煽るようなことを言ったのは、同じ土俵で桐椰くんに勝ちたいと思ったからなんじゃないのかな。こんな考え方は、松隆くんの好意を踏みにじってしまう考え方になってしまうのかな。

 家族連れやカップルに混ざって道を歩きながら、松隆くんは少し困ったように笑った。


「そんなの、俺凄く格好悪いってことにならない? 遼には負けたくないってライバル意識を持ってるってことだろ? そのせいで何かと張り合ってるとか……」

「格好悪い……とは別に思わないけど……なんでだろうなとは思う、かな……」


 他人を比べること自体妙な話ではあるのだけれど、松隆くんと桐椰くんに優劣なんてつかないはずだ。桐椰くんは優しいけれど、例えば蝶乃さんに言わせればそれは愚鈍で、松隆くんは頭が良いけれど、例えば私に言わせればそれは腹黒い。顔の造形なんて親の遺伝子だし、ルックスは違うだけで好みの問題だ。面倒見のいいお兄ちゃんタイプがいいか、傍若無人一歩手前の王様タイプがいいか、それも好みの問題だ。どっちのほうが勉強ができるとか、どっちのほうが歌が上手いとか料理が上手いとか、それを理由に優劣を付けるのはただの拘りの域だ。


「松隆くんは松隆くんで、桐椰くんは桐椰くんでちゃんと魅力的な人間だと思うし、ね」

「でも桜坂にとって魅力的な人間にはなれないわけだ?」


 ……今は何を言っても無駄かもしれない。付き合えないくせに魅力的だなんて言うのは無責任にもほどがある。お陰で閉口してしまった。そのまま黙々と暫く歩いていると、不意に、松隆くんはバラードでも歌い出しそうな穏やかな横顔で「当たりなんだけどね」と零した。当たり……? 訝しんでいると、「桜坂の言う通りだよ」と続けられる。


「多分、俺は遼にコンプレックスみたいなものがあるんだろうね」

「……え?」

「コンプレックスっていうか……、いや、やっぱコンプレックスかな。アイツに勝てるわけないのにな、って思ってる(ふし)はあるよ」


 松隆くんが、桐椰くんに? 思わぬ感情に驚いてその横顔を見つめてしまって、折角視界に映るお祭りの様子が全く頭に入ってこない。

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