第二幕、御三家の嘲笑



 立ち寄った屋台がりんご飴の屋台だけだったお陰で、屋台に囲まれた道を早々に歩き終えてしまい、ゴール地点と言わんばかりにある神社の手前まで来てしまった。神社の中には人がいないせいで、お祭りの喧騒は聞こえこそすれ充満してない、少しだけ静かな空間。神社のすぐ手前にある輪投げゲームの屋台の前で、何か景品が欲しいわけでもないのに二人で立ち止まってしまった。お陰で、体の左半分はお祭り騒ぎで、右半分は静寂に満ちていて、なんていう奇妙な感覚に包まれている。そしてその静寂は神社だけじゃなくて、手を繋いでる松隆くんのせいでもある。


「そういうことを私に言えちゃう松隆くんは恰好良いと思うよ」

「情けないの間違いだろ」

「そんなこと言わなくても、全部隠してカッコつけとけばよかったのに」

「遼の目の前で連れて行かせてもらったわけだし。このくらいしてハンデは埋めてやろうかと思ってね」


 本当に、理由はそれだけなのだろうか。それこそ、そんな劣等感を私に話さないと――自分が桐椰くんに劣ってるんだとわざわざ私に伝えないと――フェアじゃないと、そう思ったのではないのだろうか。私の勝手な想像だけれど、そうだとしたら十分恰好良いじゃん、と、松隆くんの抱く劣等感とは矛盾する評価が可笑しくて、笑ってしまった。松隆くんは隣で怪訝な顔をしている。


「松隆くんは素直じゃないなぁ」

「桜坂からは散々その評価貰ってるから、今更どうとは思わないけど」

「いいじゃん。きっと、そういうところも松隆くんの魅力だよ」

「俺と付き合うつもりがない子にそんなこと言われてもね」

「それとこれとは別に考えてくださいよ」


 本当、天邪鬼だ、松隆くんは。わざわざ桐椰くんの好感度を上げるエピソードなんて話さなくてよかったのに。わざわざ恰好悪く聞こえるコンプレックスの話なんてしなくてよかったのに。そんなことして、告白した相手の中の自分の評価を下げようとしなくていいのに。

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