第二幕、御三家の嘲笑



 まるでそれは、予防線のようだ。付き合ってくれないの、と何度も畳みかけるくせに、仮に私が頷いたら目を点にするんだろう。こんな俺で本当にいいの、こんなに遼に劣ってるのに遼じゃなくていいの、なんて確かめるんだろう。失望されるくらいなら最初から期待されないほうがマシだと言ってるように聞こえる。


「松隆くんは可愛いね」

「男は可愛いって言われても嬉しくないんだよ、桜坂」

「うーん、でも可愛いから。仕方ないね」


 〝天上天下唯我独尊・傍若無人の王様〟なんてキャッチコピーが似合いそうな松隆くんにこんな可愛い一面があるなんて知らなかった。いつだって偉そうに自信満々なくせに、本当は一番身近な人間にコンプレックスがあるなんて。


「……どうだろうね。もしかしたら桜坂にそう思わせたいがために話した嘘かもしれないよ」

「素直じゃないなぁ。今までの話が嘘じゃないって分かるくらいには松隆くんとは仲良くなったつもりですよ」


 そうやって、普段の計算高さを隠れ蓑にして照れ隠しするところも、きっと松隆くんの可愛いところだ。

 それに、私は知っている。透冶くんが会計のことで悩んでいたと桐椰くんだけが知っていたんだと発覚したときに、桐椰くんに怒鳴るほど松隆くんが怒ったこと。その怒りの中身は〝桐椰くんなら透冶くんの自殺を止められた〟なんて叱責とは程遠いものだったこと。


『幼馴染なんだから――親友、なんだから……少しは、頼ってくれよ……!』


 悲痛な想いを抱えた、自分の無力さを責めるようなあの叫びを、私は知っている。


「計算だとか打算だとか言うけど、友達にはすっごい優しくしちゃうじゃん。猪突猛進なんて言葉似合わないくせにさ、途端に直情型になって」


 松隆くんは自己評価が低いんだ。何でもできるくせに、自分ができることはできて当たり前だと、だからできても意味がないと思ってるだけだ。本当は誰にでもできることじゃないのに。そのくせ自分にないものを探して、それを持ってる他人ばかり自分の中で評価しているだけだ。


「だいじょーぶだよ。松隆くんは、ちゃんと優しくて恰好良いよ」


 ね、と、見上げた松隆くんに言い聞かせるように念押しすれば、怪訝な顔をしていたはずの松隆くんの瞳が震えた。

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