第二幕、御三家の嘲笑



 そのまま、一体どれくらい経ったんだろう。松隆くんが手を離してくれても、なぜか動けずにいた。どうしたらいいのか、なんて言えばいいのか、分からなかった。この場をどうにかする口実を与えてくれそうなものは、せいぜい、私の手の中にあるりんご飴の串くらいしかなかった。


「……私、これ捨てて来るね」


 ん、と松隆くんは小さく頷いただけだった。隣の隣の屋台のところにゴミ箱があるのは覚えていたので、松隆くんの前を足早に去る。振り返った松隆くんは、なんであんなこと話しちゃったんだろうな、と言わんばかりに腕を軽く組んで、口元を覆って、少しだけ俯いていた。

 目当ての屋台までやって来て、ひょいと串を投げ入れる。ふとスマホで時刻を確認すれば、八時を回っていた。よしりんさん達と別れてしまったのが何時かは覚えてないけれど、そこそこ長い時間松隆くんと一緒にいてしまったことは間違いないだろう。LIMEには「総と一緒か?」と月影くんからの連絡が一つ入っているだけだった。その連絡が来ていたは七時半だから、そのくらいに別れたのかな。よしりんさんは連絡先を知らないので何も連絡はなく、桐椰くんからも何の連絡もなかった。我儘にも、自分の表情が曇るのを感じる。いくら松隆くんの脅しがあったとはいえ、やっぱりあの状況で松隆くんと二人でいることを頷くべきではなかった……。

 取り敢えず、合流するか松隆くんの別荘に直接戻るか、どちらにするか連絡しなきゃ、と月影くんの連絡先を開いた。桐椰くんに連絡するのは当てつけみたいで気が引けた。「まだお祭りにいる?」とだけ返信して、松隆くんのもとへ戻ろうとスマホから顔を上げて。


「あ、すみません」


 ドン、と体がぶつかった。歩き出そうとしていた瞬間の出来事で、聊か不注意だったとはいえ、擦れ違いざまに肩をぶつけてしまったのと同じ。ただ、それだけ――。


「えっ、」


 それだけ、なのに。手から、スマホが抜き取られた。はっと、自分とぶつかった相手を目で追う。妙に派手な赤い帽子を被ってたのですぐさま見失うとまではいかなかったけれど、人混みの間を縫って走り去ろうとしている。このまま逃げられると到底見つけられないだろう。

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