第二幕、御三家の嘲笑



「で、パスワードとか電子マネーは?」

「パスワードは通販サイトが一つあるけど覚えさせてはない。電子マネーはある……」

「だったらそれだけロックしたほうが早いかもね。そもそも遠隔ロックの設定は?」

「してないですね」

「……桜坂」

「だって日本にいて盗られるとは思わないじゃん……」


 松隆くんの目が不用心だと責め立ててくるけれど、仕方がない。松隆くんは改めてぐるりと神社の境内を見渡した。もちろん、奥になればなるほど月明かりは頼りなくなり、その様子は判然としない。私のスマホを盗った人だってこちら側へ走って行ったとは思ったけれど、見当たらない。


「まぁ……この有様だと見つけられないだろうし。諦めて止めてもらったほうがいいんじゃない」

「うわーやだな……まだ新しいのに……」

「そうなの?」

「高校生になってから契約したばっかりだし。まだ機種代金も残ってる」

「そりゃついてなかったね。で、キャリアに連絡したら?」

「……松隆くんは同情するときはもう少し心を籠めるように気を付けたほうがいいと思うよ」


 松隆くんがロックを解除した上で差し出してくれたスマホを受け取る。松隆くんのスマホのホーム画面の背景は海だった。ほとんど白に近い砂浜だから今日遊んできた海じゃないだろう。


「松隆くんって海外旅行とか行くんだっけ」

「行ったことはあるけどどうして?」

「壁紙が海外の海っぽかったから」

「多分去年の夏の写真だね。そんなことより早く止めて――……」


 近くにコンビニさえもない場所で盗られたところで焦ることはない、そう思って雑談をしていたけれど、松隆くんは不意に口を噤んだ。


「松隆くん?」

「キャリアの連絡要らないっぽいよ。犯人見つけたから」


 え、どこ、なんて口にする前に、その相手は私の目にも入った。拝殿(はいでん)の脇で煙草にライターの火を灯す人がいたからだ。こんな時間にそんな場所で煙草を吸ってるなんて、怪しいですと告白しているに等しい。実際、そこにいる四人のうちの一人は、私のスマホを盗っていった妙に派手な赤い帽子を被った人だった。四人の話し声が聞こえたわけではないけれど、なんだか他の三人に対しては腰が低いように見えた。帽子の人はかなり若く見えたから、もしかしたら大学一年生とその先輩達なのかもしれない。残る三人は、一人を除いてそこそこ大柄に見えた。

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