第二幕、御三家の嘲笑
「……四組の、檜山(ひやま)さん、だけど……」


 舞浜さんと大橋さんといつも一緒にいる、笛吹さん事件に巻き込まれたクラスメイトの一人。宍戸先生はあまり何も考えずに答えたみたいだったけれど、松隆くん達の表情を見た瞬間に、それこそその表情をさっと変えた。


「え……」

「分かりました。じゃ、桜坂は俺達が連れて帰りますから」


 そして私に拒否権はない。桐椰くんに腕を掴まれ、そのまま御三家に連れていかれる。宍戸先生は呆然としていたけれど、ややあって我に返った。


「ちょ、ちょっと待ちなさい、貴方達授業は、」

「出なくても一番は取ります」

「そうじゃなくて!」

「大丈夫ですよ、先生」


 振り向いた月影くんはポケットから掌サイズのICレコーダーを取り出した。まさか、なんて青ざめたのはもちろん私だけじゃない。

――宍戸先生のところに――質問かお喋りか知りませんけど、来ていた生徒がいたんですよね? だから桜坂が溺れていることに気付かなかった。その生徒は誰ですか?――

――……四組の、檜山さん、だけど……――

「今、俺達を止めないなら、これは消去しますから」


 監督責任を問うつもりなんてありませんって言ったくせに、その部分だけ綺麗に省いた録音。宍戸先生は檜山さんと話していたせいで私から目を放していた、その証拠が出来てしまった。


「じゃ、俺達はこれで」


 胡散臭い笑顔を貼り付けた松隆くんがぺこりと頭を下げた。御三家の思惑通り、宍戸先生は私達を止めることはなかった。御三家怖い。大人が子供相手だと油断してたらこの有様というわけだ。


「で、どうする? 学校戻るのマズイだろ」


 宍戸先生から離れて、最初に口を開いたのは桐椰くんだ。


「うちに来る? 空いてる部屋あるし」

「学校サボったら弓親(ゆみちか)さんに怒られるだろ……」

「弓親さんはこの時間買い物だから大丈夫」


 一体誰の話なのだろう。松隆くんの家にはお手伝いさんがいて、その代表格みたいな人なのかな。病院を出るとごく自然にタクシーに乗り、私と桐椰くんと松隆くんが後部座席に、月影くんが助手席に座る。


「結局松隆くんの家に行くの?」

「そうだね。桜坂の荷物は回収したし」

「あ」


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