第二幕、御三家の嘲笑



「……松隆くん、あれは……」

「面倒事は御免だから、吉野に連絡しといて。ついでに、祭りを巡回してる警察官を連れてきてくれたら助かるって伝えて」

「待って、やめよう」


 松隆くんの台詞は、話し合いで解決しないならしないで構わないと言っているように聞こえた。だから慌ててその腕を掴んで止める。確かに――暗がりであまり見えていないというのもあるけれど――あそこにいる四人はそんなに危ない人達には見えない。でも、私が松隆くんを連れてきたのに逃げ出さないなんておかしい。スマホを盗って、それを追いかけてきた持ち主――そしてその獲物はおそらく女の子――を狙うのだとしたら、男を連れてきた時点で逃げ出したほうがいいと考えるのが普通だ。スマホを置いていくにしろ、そのまま盗っていくにしろ。それをしないということは、男が一人いる程度なら問題ないと考えているということなのではないのだろうか。

 私の懸念は間違いなく松隆くんに伝わったし、松隆くんがそんなことに気付いていないわけがなかった。でも、松隆くんは大丈夫とでもいうように私の腕を掴んで離す。


「少々なんとかなるよ。多少慣れてるし」

「でも……、その……、」


 雅の事件のときに、少なからず松隆くんと桐椰くんが怪我したことを知っている。二人が負ったのは掠り傷とかちょっとした切り傷程度だったけれど、それでも私のせいで怪我をさせたことには変わりない。それを思い出したせいか、妙な胸騒ぎがしてしまった。


「こんなところにいつまでもいたって仕方ないだろ。早く返してもらったほうがいい」

「と、りあえず、よしりんさん呼ぶから、それまで待とうよ? ね?」


 時間の経過で再びスリープになった松隆くんのスマホのロックを解除してもらって、慌ててよしりんさんの連絡先を探す。大袈裟なほどに心配する私に松隆くんは訝しげな眼を向けていたけれど、構わずに電話をかけた。コール音をじれったく感じた。


「あーのさぁ。このスマホ、彼女の?」


 よしりんさんが電話に出る前に、少し離れたところから声が聞こえた。松隆くんが体を向け、私は目だけを向ける。四人がぞろぞろと拝殿のほうから歩いてくる。一人がスマホを翳すように軽く振っていた。

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