第二幕、御三家の嘲笑



「あぁ。何、返してくれるって?」


 松隆くんが一歩前に出たとき、丁度電話は繋がった。


「よしりんさん、あの今、」

「『……何』」


 そして、血の気が引く。電話の相手は、桐椰くんだ。


「な……、んで、桐椰くん……?」

「『吉野の手が今塞がってるから。俺じゃ悪いわけ?』」


 その声は、あからさまに不機嫌だ。そんなの当たり前だ、急に松隆くんと二人でいなくなっておいて、松隆くんのスマホから電話をかけるなんてどうかしてる。でも……、取り敢えず今はそんなことを言ってる場合じゃない。


「詳しい話は後にしたいんだけど、いま神社で――」


 ヒュッ、と視界の隅で光が宙を舞った。思わず視線を連れていかれてしまった。その間に、パシッ、ダァンッ、と妙な音が複数響き、今度は慌ててそちらへ目を向けた。一人が参道に背中を叩きつけられて呻いている。松隆くんは鬱陶しそうな横顔で、引っ張られたTシャツを整えていた。ガシャッ、と音がしたかと思えば、放り投げられた私のスマホは参道のコンクリートではなく地面の上に転がっていた。チッ、と残った三人の一人が舌打ちする。


「慣れてんのかよ」

「そっちこそ、わざわざこんなところに呼び寄せるなんて、随分慣れてるのかな?」

「『神社で、何?』」

「あ、えっと……、その、神社にいるんで、迎えに来てもらえませんか……」


 きっと、大丈夫だ。さっきまでの私の心配はきっと杞憂に過ぎない。根拠もなく不安を感じるなんてどうかしてた。電話の向こうの桐椰くんは相変わらず取り合ってくれる気配はない。それは私自身が招いたことで仕方のないことではあるし、そんなに危なくなさそうだから、できるだけ早く来てくれたらそれでいい。きっとそれだけで大丈夫だ、それとは裏腹に、松隆くんが、参道に転がった一人から少し距離をとりながら眉を顰める。

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