第二幕、御三家の嘲笑



「えー、お前さぁ、もーちょい美人引っ掛けろよ」

「ッ桜坂!?」


 痛みに耐えた松隆くんの声が、鈍い音と共に一瞬途切れた。大柄な男がせせら笑っている。


「軽いなー、お前。んなもやしみたいな体で敵うと思った? こちとらお前と違ってタフなんだわ」

「松隆くん!」

「あぁなに、彼氏じゃないの?」


 松隆くんを地面に叩きつけた人の声を合図にしたように、ぐるん、と体が反転して地面に叩きつけられた。痛い、なんて呻いている間に腕が頭上に縫い付けられた。空の代わりに視界を覆う男の人は二人、最初の赤い帽子の人と、さっきまで見ていた四人のうち誰でもない人――しまった、最初から五人いた。松隆くんのいたほうから、「ははっ」と気が狂ったような笑い声が聞こえた。


「ザーンネン。いや、別にいんだけどね、彼氏じゃなくても。彼氏と一緒に来たら、彼氏の前で犯すのもたのしーんじゃない、って話してたのよ」


 ゾク、と、冷たい地面に触れている背中を悪寒が這い上る。このままだと、駄目だ。


「お前ちゃんと押さえとけよ」


 ぐっとTシャツに腕がかかる。それでも、赤い帽子の人が押さえているのは私の腕だけだ。口は塞がれていない。あらん限りの息を肺に取り込んだ。

 キャーッ、と、絶叫した。金切声のような悲鳴は自分の喉から出たとは思えないくらい、境内に響き渡った。お祭りの騒ぎで悲鳴なんて聞こえないかもしれない。それでも何もしないよりマシだ。どう考えても分が悪い状態で、ろくに松隆くんの力にもなれない私が体だけ抵抗するよりずっとマシだ。運が良ければ誰か気付くかもしれない、もっと運が良ければ巡回中の警察官が気付いてくれるかもしれない。――そして何より、松隆くんの相手が一瞬でも怯んでくれるかもしれない。

 実際、松隆くんが解放されたのが聞こえた。「クソッこいつ!」と恨みがまし気な台詞が呻き声交じりに聞こえたから。


「この女ッ!」


 頬を拳で強く殴られた。ビリビリと、殴られた部分が熱を持って痛む。襟首を強く掴まれて引っ張られ、首を後ろに圧力がかかったかと思うとそのまま引き裂かれた。

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