第二幕、御三家の嘲笑



「と……、(とどろき)さん……、」

「あぁ、悪い悪い」


 次いで、腕からそのナイフは抜き取られた。その有様を、どう、言葉にすればいいのだろう。血飛沫(ちしぶき)が吹き出て、(おびただ)しい量の血が流れ出る。松隆くんは荒い呼吸をしたまま、私と共に少し後ろに下がる。


「綺麗な顔して、えげつないことすんじゃん。自分刺されたくないからって、人間盾にするかフツー?」

「……俺がコイツ盾にした後にカッター振り上げただろ。人聞き悪いこと、言うなよ」

「ははっ、さすが動体視力はばっちりってか」


 友達を刺してしまった男の人は血の付いたカッターナイフ片手に笑っていた。怯えているのは私だけじゃない、相手の仲間もだ。だって、この人は誤って友達を刺したわけじゃない。松隆くんがこの人の友達を咄嗟に掴んで盾にしたのは間違いないけれど、私にだって見えていた、自分の友達が目の前に飛び出たときに不敵に笑った、その顔が。


「いやー、この間ちょっとマズっちゃってさー。そのネタで強請(ゆす)りやがるから、けじめだよ、けじめ」


 何の話をされているのか、全く理解できない。マズった、って、このレベルの人が強請られるってことは犯罪行為だ。だからけじめに刺しておいた? 理解、できない。


「ま、でもコイツはこれでけじめついたから? そろそろ彼女ちょーだいよ。限界っしょ」


 腕から酷く出血した人は地面をのたうち回っている。刺されたことはないから分からないけれど、それほどまでの激痛なのだろうか。そこまで、躊躇なく深く刺したのだろうか。恐怖心は増幅していくばかりだ。それでも松隆くんが怯む気配はない。相手の男は不愉快そうに顔をしかめた。



「そこまでしぶといとか引くわー……」


 いい加減飽きたとでも言いたげな、その声。それはきっと、標的と目的を、松隆くんを殴り殺すことに変えるという宣言だ。ゾク、と危険を察知した体は咄嗟に松隆くんの前に出ていた。私を必死に後ろにおいやってくれていた松隆くんの腕は、もう力を失っていた。そのことに気付いてしまったのだろう、背後の松隆くんがしまったとでも言いたげに息を呑んだのは感じ取れたし、目の前の男の人は不気味に笑った。


「あぁ、耐久レース、終了のお知らせね」


 その言葉は、この状況の終了も意味した。

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