第二幕、御三家の嘲笑



「……すいません」

「アナタが謝ることないのよ! アタシも総ちゃんがアナタを連れていくの黙って見てたし! 好きにすればいいわって思ってたから! ……寧ろ謝るのはアタシよ」


 ごめんなさいね、と謝ったよしりんさんの声は酷くか細く聞こえて、よしりんさんの声じゃないみたいだった。暫く沈黙が落ちる。


「……総ちゃん、警察から話聞かれ終わったみたいなの! アナタのこと心配してたから、警察に話聞かれる前に顔見せましょ。ね!」


 よしりんさんに促されるまま立ち上がり、松隆くんの病室の扉を開ける。スー、と滑らかに開いた扉の向こう側で真っ先に目に入ったのは、丸椅子に座って額を押さえている桐椰くんだった。月影くんは黙って傍に佇んでいる。松隆くんは「いいって言ってんだろ」と軽い口調で返事をしているけれど、桐椰くんは「ごめん……!」と絞り出すような声で謝っていた。


「俺が……、あの時、すぐに気付けば……!」


 桐椰くんが、あの電話を真に受けなかったのは仕方がない。だって私が松隆くんといなくなって、私が松隆くんのスマホから電話したところで、そう緊急の用事があると察することなんてできない。私だって、迎えに来てほしいとか、トラブルに巻き込まれてる程度のことしか言わなかった。


「だからもういいって。お前にそんなに謝られると気持ち悪いし。幸いにも自慢の顔は綺麗なままみたいだしさ」


 松隆くんの飄々としたが、こんなにもわざとらしく聞こえたことなんてない。そのせいで扉の前で立ち尽くしてしまった。よしりんさんが促すように背中をぽんぽんと叩いてくれるけれど、足が動かない。

 お陰で、松隆くんが私を見た。その手当の様子を見るだけでも痛々しかった。それなのに、くしゃっと、申し訳なさそうな苦笑いをする。

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