第二幕、御三家の嘲笑



「ごめん、桜坂。痣にならないとは聞いたんだけど……」

「そんなの、残ったって……」


 どうでもいい。自分の怪我の具合だけ心配してればいいのに、わざわざ私の顔に傷が残るかなんて、お医者さんに確かめなくてもいい。

 松隆くんの優しさが、チクチクと、胸を突き刺す。お陰でなんて謝ればいいのか分からなくて閉口してしまった。月影くんと桐椰くんも何も言わなかった。空気が、重い。


「あのさ、桜坂。言っただろ、俺達は桜坂を守ってあげるって」


 それをどうにかしようと気を遣ったかのように、松隆くんはいつも通りの声の調子で言う。


「こういうときにもきちんと守っておけばさ。桜坂を御三家の下僕として扱いやすいだろ?」


 ね、と、その笑顔は腹黒く胡散臭く、輝く。

 ――はずなのに。いつもなら、クソリーダー、と罵りたくなってしまうような笑みを浮かべているはずなのに。いや、今だってそんな笑みを浮かべているくせに。どうして、こんな時だけ気付いてしまったのだろう。怪我のせいで上手く笑えてないことなんて関係ない。そんなこと関係なしに、その不完全な笑みに言葉を詰まらせてしまった。

 いつだって見抜くことのできないその言葉と微笑みの裏を。どうして、今だけは、その言葉もその微笑みも、嘘だと、分かってしまったのだろう。


「だから桜坂、九月からも御三家の下僕としてちゃんと働いてね?」


 どうして――……。

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