第二幕、御三家の嘲笑

(四)君は運命を喜べない


「おはよう」


 下駄箱の前で声を掛けられて、顔を上げる。桐椰くんだった。会うのは旅行の日以来だ。授業がある間は当然桐椰くんに会わない日なんてなかったし、夏休みに入ってすぐに雅の件があったし、月影くんの誕生日プレゼントも買いに行ったし、旅行にも行ってたし、桐椰くんにこんなに会ってなかったのは初めてかもしれない。お陰でなんだか久しぶりに感じてしまった。


「……おはよう」

「……顔、綺麗に治ったな」


 良かったな、と桐椰くんは小さな声で言った。こくんと頷く。それ以上何を話せばいいのか分からず、沈黙したまま教室まで歩くことになる。話そうと思えば他愛ない話はできる。登校日面倒くさいね、もうすぐ学校始まるのに何で登校日なんてあるんだろうな、模試の結果返すためなんでしょ、嫌だよねー、なんて、会話のシミュレーションは自分の頭の中に容易に浮かんだ。いつも通りに喋ることはできる。それなのにそんな気持ちにはなれなかった。

 私達とは反対に、学校内は明るかった。旅行してた人が多いのか、お土産を交換する様子が視界に沢山映る。お金持ちといえば海外旅行なのか、日本らしくないパッケージに包まれたお土産もあれば、国内の別荘でのんびり過ごしましたと聞こえてきそうな庶民的なお菓子もあった。

 教室についても、席の近い私と桐椰くんが離れることはない。私達が一緒に現れたことに特に違和感を覚えることもないクラスメイト達は、私達を気に掛けることなく楽しそうに話している。筆記具だけ入れた鞄を机の上に置いたままぼんやりとしていると、背後から「総の怪我さ、」と聞こえたので弾けるように振り返った。桐椰くんは椅子の背に凭れて、腕を組んで、視線を落としている。

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