第二幕、御三家の嘲笑
「……大分、治ってたよ。元々打撲程度だったし」
「……そっか。よかった……」
「海で会った二人が大したことなくて良かったって言ってた。絶対喧嘩のやり方知らねーだろ、って偉そうに笑ってたよ」
「……ん」
松隆くんは、綺麗に話を隠している。あの現場から真っ先に逃げ出した一人――轟さんって呼ばれてたっけ――の拳は間違いなく重かっただろう。よしりんさんがちらっと話していた、高校生が殴り殺された事件の犯人の一人は、きっとあの人だった。きっと、カッターナイフで刺された人がその仲間の一人として現場にいたんだろう。流石に人を殺すとは思ってなかったと縮み上がるのはよく聞く話だけれど、それを逆手にとって強請ろうとしたというのだから、見た目よりも随分豪胆なようだ。結局、そのせいで松隆くんの代わりに刺されたけれど。
旅行は、二日目で中止になった。松隆くんの負った怪我は打撲と創傷、最大全治二週間。本人は大したことないと何度も言っていたけれど、よしりんさんが頑として頷かなかったので、次の日には帰ることになった。帰った後、今日までの間に松隆くんには何度か連絡したし、松隆くんからも何度か連絡はきたけれど、怪我に関しては「大したことない」「大丈夫」以外に返って来なかった。
「……俺が言うのも変だけど、お前のせいじゃないから。気にすんなよ」
私がだんまりを決め込んでいるせいか、桐椰くんがそんなことを言った。
「あと、総が今日休みなの、怪我と無関係のサボりだから。アイツ、登校日とか嫌いだからさ」
登校日が嫌いそうだというのは分かる。でも怪我と無関係だというのは半分嘘に聞こえた。まだ治り切ってない怪我があるから、私にそれを見せたくないだけなんじゃないだろうか。実際、お見舞いに行っても会ってはくれなかった。