第二幕、御三家の嘲笑



 私が期待していた表情をしなかったことに桐椰くんも表情を曇らせるのが分かった。明るい声で「そっか、松隆くんそういうとこあるよねー」と返すのが正解なのだろうか。分からない。


「……あのさ」

「ん……?」


 不意に、桐椰くんの声の調子が少し変わった。今までは少し静かな、ただ暗い声だったけれど、妙な緊張感を帯びている。その顔を直視すれば、その目は少し泳いでいた。


「……あの日……、お前、総と……」


 それに続く言葉は何だったのだろう。言い淀んだ桐椰くんは「……いや、なんでもない」とそのまま口を閉じてしまった。松隆くんと、ということは、二人でお祭りを過ごしている間に何があったのか聞きたかったのだろうか。でも松隆くんが私に告白したことは、旅行一日目の夜に聞いている。ただ、その返事は知らないはずだ。一先ず保留にした私が、松隆くんと二人になったタイミングで返事をしたということは想定してもおかしくない。続く言葉が「総と付き合ってるの?」だというのは十分に考えられる。正解は、ノーだけれど。

 ただ、桐椰くんが畳みかける気配はないので「そっか」とだけ返事をして前を向く。質問が撤回されたのに、その事実をわざわざ伝える必要はなかった。

 その後、普段は各クラスで行われるホームルームに代えて全校集会が行われ、登校日までの夏休みの間に賞を貰った人が何人か表彰された。理事長と校長の挨拶が済んで教室に戻れば事務連絡が待っていたけれど、登校日の連絡なんて手短でありふれたものだった。夏休みの生活の様子とか、返却される模試が持つ意味だとか、新学期のお知らせだとか、そんなものを淡々と説明された。なんなら詳しくはwebでとでもいうように、その説明は要点をかいつまんだものに過ぎなくて、詳細は配布プリントを確認すれば足りた。

 そのプリントに書いてあることだって、注意事項に関しては校則の緩さを映し出したような寛容さで、四文字で表せと言われたら「法律順守」だ。新学期のお知らせはスケジュール表が貼られていて、枠外に小さく「生徒会役員の希望がある場合は現生徒会長若しくは副会長に連絡すること」と注意書きがあった。そっか、希望役員は立候補するのかな……あとは指名役員を新しく考えたりするのだろうか。でも有希恵は中途半端な時期に無名役員になっていたし、蝶乃さんも中途半端な時期に私を指名役員に勧誘したし、いま決まるのは指定役員と希望役員だけかな……。

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