第二幕、御三家の嘲笑



「で、桜坂さんはー、鹿島くんが呼んでたよー?」


 ――すると、その名前が飛び出た。思わず凍り付いてしまったけれど、慌てて平静を装いながら「え、なんで?」と聞き返す。例によって飯田さんは何も知らなくて間宮さんの伝言だというのだろうとは思ったけれど、一瞬でも狼狽してしまったのを気付かれたくなくてそう口にした。飯田さんは人差し指を顎に当てて「えー、知らないよー」とだけ返事をする。


「……じゃあ鹿島くんが呼んでたって、どこに?」

「あ、生徒会室だってさー」

「……分かった。桐椰くんには先に帰ったって言っといて」


 私に拒否権がないのは分かっている。どうせ副島先生が桐椰くんを呼んでいたなんて嘘で、鹿島くんが間宮さんを使っただけだろう。下手に生徒会役員を使うと裏がありますなんて言ってるようなものだから敢えて一般生徒を使った。一般生徒は生徒会役員に逆らえないし、間宮さんは松隆くんに嫌われてるし、鹿島くんの言うことを聞かない理由なんて一つもない。

 鞄を持って教室を出ていこうとすれば、飯田さんはきょとんとした顔で「えー、桐椰くんに伝えなくていいのー?」と確認するものだから「いいです」とだけ返しておいた。御三家の仲良くしてる女の子が生徒会長に呼び出されたなんて、普通の頭ならその違和感というか何か意図があることには気づくだろう、わざわざ桐椰くんのいない場所で告げたとなれば猶更だ。だから飯田さんも気付いていないはずがないのに、桐椰くんに事実を伝えなくていいのかそんなに純粋な目で訊ねてくるなんて、きっと生徒会役員としてはあるまじきこと。

 文化祭のときに松隆くん派だと公言もしていたし、それでも生徒会至上主義のヒエラルキー制度を疑問視するわけでもないし、本当に飯田さんはただただ純粋に花高の現状を受け入れていることだけは改めて分かった。

 今更げんなりと呆れた目を向けることもなく、ただ「伝言ありがと」とだけ言い残して鹿島くんのいる生徒会室へ向かう。

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