第二幕、御三家の嘲笑



「鹿島くんに呼び出されたので、これから生徒会室へ向かいます」

「馬鹿か?」

「そんなキツく言う!?」


 私が全部言い終える前にバッサリと切り捨てた。愕然とする余り、今朝からずっと抱えていてた鬱屈とした気分なんて吹っ飛んだ。ある意味月影くんは私を元気づける天才かもしれない。


「仕方ないじゃん呼びだされたんだから! 鹿島くんにはその……、逆らえないわけですし」


 廊下だから人目はある。私と月影くんが喋っていること自体はそう珍妙な光景ではないと思うのだけれど、御三家ファンの月影くん推しが月影くんの台詞を一言一句聞き漏らすまいと耳を(そばだ)てている可能性は拭えない。そうなると鹿島くんのことを聞かれるおそれがあった。

 それなのに月影くんは「馬鹿か?」と続けるだけだ。その目が本気で馬鹿かと言っている。ここまで雄弁に語る目は初めて見た。


「だからといってのこのこと行くか? まず生徒会室に来いというのは一人でと言われたか? 誰にも話すなと言われたか?」

「それは……言われてませんけど、そんなの桐椰くんを職員室に行かせてるんだから察することは……」

「自分を脅す相手に対して物分かりの良さを発揮してどうする? 君は馬鹿なのか?」

「この二分くらいで私に三回も馬鹿って言ったよ! もっと控えて!」

「だったらまずは君が馬鹿な言動を控えてくれないか?」

「また言った!」

「大体、なんなんだ今朝の態度は」


 今朝? 月影くんと今日会ったのは今が初めてだ。首を傾げると「遼とまた喧嘩でもしたのか」と補足されたので、どうやら今朝桐椰くんと無言で歩いていた様子を見られていたようだ。だったら声くらいかけてくれればよかったのに、とは思うけれど月影くんはそういった様子を無言で眺める人だ。分かってた。

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