第二幕、御三家の嘲笑



「……別に喧嘩してたわけじゃないですよ。私に元気がないときがあってはいけませんか」

「元気がない? 君が?」

「万年元気な能天気みたいに聞こえたんですけど合ってますか?」

「被害妄想はほどほどにしておかないと現実になるぞ。俺が言ったのはそういうことではなく、君ほどの人間が演技をする元気さえなかったとはどういうことだと問うている」


 前半はとんでもない脅し文句だったので思わず身構えてしまったけれど、後半を聞いて言葉を失った。そのまま口を噤んでしまった私に何を言うでもなく、月影くんはただじっと見つめてくるだけだ。月影くんは多分私が喋るまで何の助け舟もくれないだろう。


「……私、だって……人並みに責任くらい感じる」

「総の怪我のことか」


 なんだそんなことか、と言わんばかりの呆れた口調だった。


「それは君が気に病むことではない。あれは彼等の常套手段だったわけだろう、敢えて目印のある仲間が一人でいる女子から貴重品を奪い、わざとその逃げ先を見せ、仲間が待ち構える暗がりに誘い出す。寧ろ総を途中で拾った君は機転が利いたほうじゃないか? それなりに彼等は苦労したと思うが」

「……その機転のせいで松隆くんは怪我したんじゃん」


 そんな言葉、月影くんらしくない。私のせいで松隆くんが怪我したんだから私を詰ればいいのに。理不尽な怒り方をする人じゃないのは知っているけれど、怒られても文句を言う余地なんてないのは知っている。


「私が一人でスマホを取りに行けば松隆くんは怪我しなかった」

「戻ってこない君を総が探さなかったと言ってるのか?」

「……松隆くんが探せない場所に連れて行ってくれてたかもしれないじゃん。松隆くんが来た時点で逃げてたかもしれないし」

「……何を言ってるんだ、君は?」


 その声は、心底呆れていた。表情だって同じだ。いや……、呆れているどころか、どこか怒気を孕んでさえいた。それ自体は私の期待したものではあったのに、その理由は予想とも期待とも全く違った。

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