第二幕、御三家の嘲笑



「君の今の言い訳は、君の体と総の体を比較しているようにしか聞こえない」


 そしてその口から吐き捨てられた台詞も、予想外で。あまりに心当たりのない怒りを向けられて眉を顰めてしまう。


「それ、何かおかしいの?」

「……何?」

「だってどっちかが傷つくしかないんだよ? スマホを諦めるって選択肢もあるにはあったけど……。どっちかが傷つくときにどっちなら傷付いていいかを考えるのなんて当たり前じゃん……」


 どうして話していることが伝わらないんだと、お互いに訝しんでいることは確かだった。月影くんは一度何か返事をするように口を開いたけれど、再び閉じて、ややあってまた開くなんて、らしくない躊躇(ためら)いをみせる。


「……総が君を助けた理由が分かるか」


 それとは裏腹に、その言葉は酷く重く圧し掛かる。


『俺がどれだけ桜坂を大事かまだ分かんないのかよ!?』


 あのときのあの言葉と、横顔を忘れていない。だから、申し訳なく感じるんだ。松隆くんは私を守る必要なんてなかったのに。

 でも、それなら、どうして私は一人でスマホを取りに行かなかったのだろう。

 どうやら、狂ったのは私と御三家との関係だけじゃなさそうだ。


「……もう行っていいですか」

「……君は本当に何の話も聞いてないんだな」


 もうその目は「馬鹿か?」なんて言わない。ただ、言う価値もないなんて言っているわけでもなく、ただ仕方なさそうな目をしていた。どうして仕方ないといえるのだろう、月影くんらしくない。


「行きたいなら行けばいい。あの二人がどうであれ、俺自身は必要以上に生徒会を敵視することはない。君が生徒会長に服従したところで態度を変えるつもりはない。ただし味方には順位があることを覚えておけ」


 順位――そんなのは当たり前だ。いくら月影くんが私を信頼することに決めたといっても、その信頼が幼馴染の二人に勝ることはない。友達としての大切さも、あの二人に勝ることはない。その分かりやすい優先順位に駄々を捏ねるつもりなんてない。

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