第二幕、御三家の嘲笑



 それなのに、奇妙な(わだかま)りがあるのはなぜだろう。ですよねー、なんて軽口すら叩けないのはなぜだろう。……そんなものの答えは、分かってる。その答えがあまりにも情けなくて、気の利いた返事も思いつかずに(きびす)を返す。


「……じゃあ」

「あぁそうだ、言い忘れていた。この間菊池に会った」


 わざとらしい引き留め方に普段なら笑ってしまっただろうけれど、その名前のせいで素で驚いて振り向いた。雅に?


「なんで? どこで?」

「図書館前だ」

「雅はそんなとこに行かないよ?」

「だろうな」


 応答が棒読みだった。抑揚のない喋り方はいつものことだったけれど、必要十分な返事をしないのはらしくなかった。普段の月影くんなら私が訊ねる前にいつどこで何の要件で来たのか教えてくれるはずだ。それをしないのは――自惚れでなければ――桐椰くんが戻って来るまでの時間稼ぎだ。策略にまんまと乗ってしまった自分が馬鹿みたいで、ともすれば松隆くんのようにニヤニヤ笑っているようにさえ見えてしまうその無表情を睨みつけた。


「……月影くんに何か言ったの? 私に言付けでもあった?」

「君に関することではあったが、俺宛てだったな」

「……月影くんに何を話したの? 嘘吐いて口裏合わせてくれてありがとうって?」

「それは前提になっていたし、含意されてはいたが、メインはそれではなかった」

「じゃあ何?」


 もったいぶらずに教えてよ。生徒会室に急ぎたい一心で、半ば苛立ち交じりにそう促した。


「あの日は来てくれてありがとうと言われたな。それから嘘を吐いてくれてありがとうと」

「だからそれはもう聞いたよ……」


 本当にただの時間稼ぎじゃん。何もないならもういいよ、と今度こそ生徒会室に向かおうと月影くんに背を向けて。


「それから、君を頼むと言われた」

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