第二幕、御三家の嘲笑



「……何の話してるの」

「君こそ何の話をしてるの? 松隆が桜坂を好きだなんて、子供でも分かるくらい分かりやすい事実じゃないか」


 子供でも分かるくらい分かりやすい……、ということは、やっぱり松隆くんの告白自体を知ってるわけじゃない。それだけで少しだけ安心はする。一切関わりのない事実まで知っているとなれば、それはもう鹿島くんにストーカー疑惑が持ち上がるまであるけれど、さすがにそれはないようだ。


「……松隆くんはああ見えて優しいけど」

「あぁ、好きな女にはね?」

「……私だけが特別なわけじゃ、」

「自覚はあるんだ、特別に扱われてること」

「…………」

「というか、自分を好きな男に向かって、特別なのは私だけじゃないよね、なんて言う? そりゃあ世の中には好きな女を特別扱いしない不器用な男もいるけど、あそこまであからさまに君を特別扱いする松隆に向かってそんなことを言うなんて、随分デリカシーがないというか、自己愛が激しいというか。可哀想だよね、松隆も」


 何も言い返せなかった。その通りだ。鹿島くんのいう“あそこまで”がどのことを指しているのかは分からないけれど、少なくとも松隆くんが優しくしようと思わずに優しくしてくれるのは――多分だけれど――私だけだ。


『こういうときにもきちんと守っておけばさ。桜坂を御三家の下僕として扱いやすいだろ?』


 あの日の松隆くんは、私を庇ってくれた理由を、今後も利用するためだなんて“腹黒い笑み”と共に告げた。それなのに、どう見てもそんなのは嘘だった。その嘘を吐こうとした理由が何にああったのかは分からない。でも、私の表情を――神社で見たものか病室で見たものかは関係なく――見て咄嗟に吐いた嘘だったら。そうだというのなら、それは私が松隆くんの怪我に罪悪感を抱かないようにするための嘘だ。俺が庇ったのは打算のためだよ、なんて嘘を尤もらしい本当に見せかけるために浮かべたあの笑みを、私が看破することまで計算だったとしたら、それはもう降参するしかないけれど、あの笑みは間違いなく松隆くんが本当に見せかけようとした嘘だった。今まで何度も見せてきた腹黒い笑みと同じだと私が判断すると思って見せた嘘だった。それに気付いて、呆然としないわけがない。

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