第二幕、御三家の嘲笑



 だって、あの笑顔は嘘だったけれど、今までの笑顔が嘘じゃなかったとどうして言い切れる。今までの腹黒い笑みの中に嘘の笑みが混ざってた可能性をどうして否定できる。私が気付かなかっただけなんだと、どうして言い切れる。

 そうだとしたら、特定の笑顔を腹黒い笑顔として認識させておくことが、松隆くんが入念に敷いていた布石なんじゃないかと、疑わずにはいられない。とすれば、その布石は、いざというときに備えた私のためにあったんじゃないかと、思わずにはいられない。


「いやー、本当に君は面白いよね。まさかこんなことになるとは思ってもみなかった。最高だね?」

「……目的は何なの」

「さぁ? 取り敢えず、君も聞きたがってた要件を告げようか」


 ニッ、とその口角を吊り上げた鹿島くんが再度口を開く音が不気味に響いた。


「生徒会に入らないか?」


 ――何を、言っている。


「は……、そんなの、」

「入れるわけがない?」


 あまりにも予想外の要求に目を剥いた。喉がカラカラに渇いた。だって私に選択する余地はない。鹿島くんが私に提示することはすべて命令に等しい。生徒会に入れだなんて、御三家を裏切って生徒会側につけと口にしたも同然だ。


「そうだよね、君は御三家の寵姫(ちょうき)だから。女癖の悪い松隆の好きな人で、女嫌いの月影にさえ傍にいることを許されている。まぁ桐椰と仲良しなのはどうでもいいんだけどさ、歌凛の元カレだなんてことに興味はないし。ただ、その君が御三家を裏切るなんて最高に面白いよね」

「……面白い、なんて理由だけで、そんなこと言ってるの……?」

「もちろん違うけど。ただ副産物だとは言わないでおくよ」


 やっぱり、鹿島くんは幕張匠と何か関わりのある人だった……? でも桐椰くんを差し置いて松隆くんと月影くんとの関係にだけ殊更に言及したのも気になる。桐椰くんとあの二人で違うことといえば……、松隆グループと鹿島グループの対立、だろうか。月影くんはお父さんが松隆くんのお父さんの主治医だから全く無関係ではないだろうし。ただ、親の企業の対立は子供の対立にまで波及するような壮絶なものなのだろうか……。

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