第二幕、御三家の嘲笑



 今度は、ただ咀嚼するように口づけられただけだった。呼び出された時点で何かされる覚悟はしていたせいであまり感情は動かなかった。でも当然ながら気分の良いものでもなく、御三家もいない今は嫌がっても問題はないから、唇が離れた瞬間にその横っ面を叩いた。パンッ、と乾いた音が響いた後、ぐっと手の甲で唇を拭うけれど、鹿島くんが私の胸座から手を離す気配はない。お陰でその目に私が映り込みそうなほどに距離が近い。


「……離してよ」

「あぁ、今回は随分と平然としてるんだね。面白くない」

「嫌がらせにキスするとか、御三家に次いで人気のありそうな鹿島くんにしては随分キスを安売りするんですね」

「安くないよ、歌凛にはあんまりキスしないし」

「もしかして鹿島くんのキスは嫌がらせにしか機能しないの?」

「何の感情も手向けない相手にするほど安くないって話だよ。好きも嫌いも、感情があるって意味では同じだろ?」

「それは蝶乃さんにあんまりキスしない理由にはならないじゃん」 

「彼氏彼女って肩書きの前提には恋があるなんてその頭は花畑なのかな?」


 蝶乃さんと鹿島くんは好きあってはいない……? 眉を顰めてみせるけれど、鹿島くんは私に答えを寄越すことは疎か、ヒントを与える気配さえない。二人共実家がお金持ちだし、ビジネスのための交際だろうか。松隆くん達の口から聞いていた限り、蝶乃さんが普通に鹿島くんを好きで付き合ってたように見えたけれど……。

 ただ、今は蝶乃さんと鹿島くんとの関係なんてどうでもいい。離してよ、ともう一度その腕を握って剥がすように動かせば、その手は漸く離してくれる。引っ張られて若干乱れた胸元を整える。

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