第二幕、御三家の嘲笑
「何、驚いてるの? 教えてくれたのは鹿島くんだよ、私は鹿島くんに逆らえない、この身を捨てない限り」
裏を返せば、この身を捨てさえすれば逆らったって構わないということだ。なんて簡単な、話。旅行で、私のスマホを盗った赤帽子の人にそれだけは感謝しよう。御三家の優しさにすっかり甘えてしまっていた私の目を覚まさせてくれたのだから。
鹿島くんは苦虫を噛み潰したような顔をしてみせる。それだけでも、この返事をした価値があるというものだ。一つだけ勝ったような気持ちになって、鹿島くんには背を向ける。
「用事はそれだけみたいだし、私、帰るね」
「待ちなよ」
扉を開けようとして、背後から伸びてきた手が止める。くるりと振り向いても、鹿島くんは苦々しげな表情でいるだけで、焦った様子は欠片もない。なんだ面白くない、なんて少しばかり残念な気持ちになる。
「本当にそれでいいの?」
「何が?」
「俺は本当に君が誰だったのかをバラすよ」
「だから、そうすればいいんじゃない」
「へぇ、知らない男に強姦されるのはもういいんだ」
「仕方ないんじゃない?」
鹿島くんがあまりに近くにいるのは気分が悪いので、まだ話す気があるというのならと、その手をどけて、生徒会室の中心にある丸テーブルへ向かう。お陰で鹿島くんの表情は見損ねた。机に腰かけて、扉の前に立ち尽くす鹿島くんに視線を遣る。
「仕方ないよ。そうじゃないと雅が怪我しちゃう」
「……そのためなら自分が犯されても構わないとか、見上げた自己犠牲精神だね」
「別に自己犠牲のつもりなんてないよ。ちょっと冷静に考えただけ」
人は、唯一無二だ。でもそれは有価値であることとイコールではない。無価値な人間はいる。価値がない人間がどうなったって、それは犠牲でもなんでもない。そして、雅にも御三家にも価値はあるけれど、私には価値がない。それは、お父さんとお母さんが何度も口にした言葉のお陰でよく分かる。