第二幕、御三家の嘲笑



「雅は価値があるんだから、雅に手なんて出させない。幕張匠の相棒ってだけで襲われちゃうとしても、幕張匠本人がいればそれはどうとでもできる」

「……あ、そう」


 私が雅へ手向ける感情になんて反吐が出るとでも言いたげな表情で、鹿島くんは私に歩み寄る。机に座り込む私の両脇に手を突いて、私に視線を合わせる。どんなに離れても私に近寄ってきてしまうようだ、この人は。その口元は、その心を映したように歪む。


「最後に聞いておくけど、菊池の餌にも御三家のお荷物にもならないために君自身がいなくなる選択はしないわけ?」

「うん、今の私にはないね」


 私の即答に、鹿島くんは――表情が変わらなかったので勘ではあるけれど――(いささ)か面食らったようだ。五月初旬の私だって、私の答えには吃驚だろう。でも何度問い質されようとその答えは変わらない。

 だって、あの優しい三人を哀しませることなんてできないから。御三家はとても優しいから。こんなに短い付き合いの私のことでも、きっといなくなれば哀しんでくれると思うから。あんなに仲の良い三人が、透冶くんが死んだことでひとときでもそれぞれ歪んでしまって仲違いしていたというのなら、これ以上あの三人の前で誰かが消えてはいけないのだと思う。その誰かには、きっと私も含まれる。

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