第二幕、御三家の嘲笑



 だから、あの三人の前から姿を消すのは、もう少し先だ。そういえばアイツどうしてるんだろう、なんて三人がふと思ったときに実はいなくなっていました、くらいが丁度良い。だから私は、今いなくなってはいけない。


『いっそのこと、死んでくれればよかった』


 ふふ、と笑ってしまった。


「幸せだよね。御三家のお陰で、私、今は生きてなきゃいけないんだもん」


 そんな私のことを鹿島くんが不愉快に感じているのは、ずっと向けられている視線のせいでよく分かった。他人の不幸が蜜の味だというのなら、鹿島くんにとっての私の幸福はどれほど苦いのだろう。鹿島くんが私への嫌悪感を募らせれば募らせるほどキスされることはもう分かっていたから、胸座を再び掴まれても逃げる気はなかった。


「俺の見通しが甘かったみたいだね。今回だけは見逃してあげるよ」


 まるで睦言でも囁くような距離で、恨み言を口にする。


「ただし覚えておきなよ。君はいるだけで、御三家の弱味になるんだってことをね」


 その恨み言を呑ませるように、口づけられた。今度は不愉快という感情さえ抱けなかった。

 バンッ、と乱暴な音と共に扉が開いたときは、完全にその最中だったと思う。好きでもない相手とするキスに目を閉じたりなんてしなかったせいで桐椰くんが入って来た様子は鹿島くんに阻まれていない視界でちゃんと捉えることができたし、振り向いた鹿島くんが大股で歩み寄って来た桐椰くんにその胸倉を掴まれて殴り飛ばされた様子も半ば観察できていた。

 ダンッ、と殴られた衝撃で床に叩きつけられた鹿島くんが手の甲で頬を拭いながら憎たらしそうに桐椰くんを睨んでいる。桐椰くんは鹿島くんを一瞥するだけで、何も言わずに私の手を掴んだ。

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