第二幕、御三家の嘲笑
生徒会室を出てから下駄箱へ行くまでも、学校を出た後の帰り道も、桐椰くんはずっと無言だった。鹿島くんとのことについて訊ねられないのならそれはそれで気が楽ではあるので、私も特に何を話すでもなく、無言で二人で歩く羽目になる。肌をじりじりと焼く、夏特有の香りが充満する中で、一生懸命鳴くセミの声だけがずっと聞こえていて、何も喋らなくても音に困ることはなかった。
「……なんで鹿島とキスしてたのか、今回は教えてくれんの」
桐椰くんが漸く口を開いたのは、もう私の家まで何分なんて距離になってからだった。その質問は来るとは思ってたので、あの時みたいに感情が昂ることはなく、だから喚き散らすことも当然にせず、「んー」と少し考え込む素振りをみせる。
「生徒会に入らないかって言われたからかな?」
「……かなってなんだよ」
「あ、入らないよ? 入らない代償みたいなものだし、あのキス」
「……お前にとってキスってそんな意味ないの」
「ないことはないけど、キス以上に大事なものってあるもん」
「……それって菊池?」
「そうだね」
本当は、御三家のことだって大事だ。鹿島くんのキスは安くないらしいけれど、私のキスはとても安い。キス程度で御三家が不利益を被らずに済むというのならそれでいい。
「……菊池とお前の関係って何なの」
「何回も話したじゃん。大事な友達だよ」
「……本当に、それだけ?」
疑うだとか探るだとかそんな態度というよりも、その声は少しだけ寂しそうに聞こえる。見上げた桐椰くんはその声の通りの顔をしていて、犬が尻尾を垂れ下げているように見えた。本当、そんな顔をされると罪悪感が疼くからやめてほしい。