第二幕、御三家の嘲笑
「お前は、自分がどうなっても菊池に悪いことが起こらなきゃいいみたいに言うけどさ。お前が哀しむことって、菊池にとっても哀しいんじゃねーの?」
ぴたりと、足を止めた。家の前に差し掛かってしまったからというのもあるけれど、何よりも桐椰くんのその指摘のせいで立ち止まらざるを得なかった。見上げた桐椰くんはポケットに両手を突っ込んで、じっと私を見下ろして、私の応えを待っている。
「……何言ってるの?」
「菊池守るためにお前が好きでもないヤツとキスしてるって知ったら菊池がどう思うか考えたことあるのかよって聞いてんの」
「何を聞かれてるのかくらい分かってるよ。なんでそんな馬鹿馬鹿しいこと訊くのって言ってるの」
「何が馬鹿馬鹿しいんだよ」
「馬鹿馬鹿しいよ。そんなこと言ってたら取引なんてできない」
「お前には他の選択肢があるだろ」
「ないじゃん」
「何のために俺達がいるか分かんねーの」
一瞬言葉に詰まったけれど、御三家に頼れないことくらい分かってるんだから、そのリアクションは間違いだった。言いくるめられそうになったのは私だというのに、その非を認めたくないがばっかりに、桐椰くんを睨みつける羽目になる。
「私が私で決めたことに口を出さないでよ」
「口出すよ」
「なんで」
「俺がお前を大事だからじゃ駄目なの」
ビクン、と勝手に心臓が跳ねた。その言葉のせいで、心臓が慌てる気配がする。それを抑え込もうとして、意味がないと分かってはいても胸元で手を握りしめてしまった。そんな私の仕草が何に起因するのか、桐椰くんは知ってか知らずか、少し考えるように息を吐く。
「……透冶は、会計で不正やったってことは言ったけど、だからどうするつもりだとかは何も言わなかったって言っただろ。俺達に何も言わずに、死ぬって決めて死んだ。お前がやってることだって、同じだよ」
同じじゃ、ない。御三家に何も言わずに一人で決めようとしていることは同じだけれど、そもそも私と透冶くんとには厳然たる差がある。