第二幕、御三家の嘲笑
「そう言わないで、松隆くん。一般生徒を助けたからこそあの票があるんだよ」

「まあそれは確かに」


 その代償と思えば安いものか、なんて鬱陶しそうにギャラリーを見回す。


「とはいえ、生徒会の権力がどうなったわけでもないけどね。俺達が覇権を奪い取ったわけじゃないし、奪う気もないし」

「ないの?」

「ないね」


 きっぱりと、まるで興味なさそうにリーダーは答えた。隣の桐椰くんも、雑誌を受け取ってぺらぺらと捲りながら頷く。


「こんなところで上に立ってどーすんだって話だしな。生徒会は学校運営に携わるから覇権握ってりゃ便利なことあるだろうけど、俺らには得ねーよ」

「いいじゃん、お山の大将も楽しいかもしれな痛いっ」


 猿呼ばわりしたことが気に食わなかったのか、桐椰くんに雑誌で頭を叩かれた。すぐに暴力に訴えるんだから。


「まあでも、生徒会との対立関係がなくなったわけじゃないしね。俺達御三家は御三家で好きにやらせてもらうよ」


 そうか……。透冶くんが死んだ理由が分かったとはいえ、透冶くんが生徒会役員辞任後に生徒会から虐められていたのは事実。御三家の三人も同じく。だとしたら真実が分かったところで生徒会と仲良くする義理も、仲良くできる理由もない。

 文化祭が終わった次の日、片付け終了直後に、松隆くん達は牟田(むた)という三年生を筆頭とした数人を雨の降る中庭に呼び出した。全部で八人、透冶くんが会計の仕事をしていたときに粉飾決算をするように脅した人、誤魔化して溢れた生徒会費で遊んだ人、その後透冶くんを責めたてた人……と、透冶くんの事件に関わっていた人達だった。松隆くん達は私に声をかけなかったから、私がそれを知ったのは偶然だった。校舎の中から中庭を見て、不穏な空気に慌てて飛び出してみれば、松隆くん達が八人の前で佇んでいるところだった。

『俺達に何か言いたいことはあるか』

 凍えるような声で、松隆くんはそう言った。観念したのか反省したのか、よく分からない様子の八人は口々に悪かったと謝ったけれど、松隆くん達は何も返事をせず。鹿島くんが話した通り、「死ぬなんて思ってなかった」「遊びのつもりだった」「本気じゃなかった」と弁解した。それが松隆くんの逆鱗に触れたのは当然だった。

『それだけか?』

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