第二幕、御三家の嘲笑



「お姉ちゃん……?」


 家の前で何か言い争ってるのが聞こえると思っているうちに義姉の声だと気付いてしまいました、そんな心の声が聞こえた。優実の前でこんな風に感情を露わにしたことなんてなかったせいで慌てて振り向いて、実際に困惑した義妹の表情に私が狼狽える。


「あ……、ごめん、優実……うるさかったよね」

「ううん、ちょっとびっくりしただけ……」


 優実の目はもちろん桐椰くんにも移るわけで、そうなればその目は一杯に見開かれる。桐椰くんはその風貌を見ると本当に印象が悪いから、私がトラブルに巻き込まれてしまったと勘違いしてしまうのも当然だ。


「あ、この人、友達だから。怪しい人じゃないから。同じクラスの――……」


 そう、思ったのだけれど。優実の表情が語っているのはそんなことじゃないのだと気付いて、口を閉じた。


「……お姉ちゃんの、友達……?」


 その表情にあるのは吃驚――だけじゃない。疑惑も、困惑も、私の勘が正しければ狂惑までが入り混じっていた。桐椰くんも同じような表情をして言葉を失っていた。


「えっと……その、前に、会ったことあります?」


 二人のその表情を、どう表そう。

 少なくとも優実はまだ読みやすかった。家の外から聞こえる口論のせいで玄関扉を開けて、ただ義姉がいることを確かめて、トラブルに巻き込まれているなら警察を呼べばそれで話は終わるはずだった、それなのにまさかこんなところで――といったところだろう。その目は泳ぎ、その口はしどろもどろと言葉を紡いでいる。


「……その……覚えてませんか? 以前、その……あなたが怪我して、倒れてるときに……会ったかな、って思うんですけど……隣の市との境にある、廃ビルみたいなとこの、裏で……」

< 401 / 438 >

この作品をシェア

pagetop