第二幕、御三家の嘲笑



 続く言葉で、当初の私の疑問は綺麗に消えた。出会った場所のことまで説明できるんだから、はったりではない。そして優実が嘘を吐いていないことくらい、桐椰くんの表情を見れば一目瞭然だ。実際、納得はいく。桐椰くんが私を初恋の人だと思い込んだのは、私と優実の目が似ているからだ。初恋の相手の顔が朧気だというのは少し妙な話だと思ってはいたけれど、怪我をして倒れていたということは、相手をまともに見ることのできない状態だったのかもしれない。その状況で優実と会っとたということは、通りかかった優実が桐椰くんに手を差し伸べるか何かしたのだろう。一目惚れなんて桐椰くんがするのかな、なんて違和感もそれなら幾分解消される。

 二人が出会ったことは、厳然たる事実として過去に存在したのだろう。それでも、桐椰くんはまだ呆然としている。念願の相手と数年来の再会を果たしたのだから手放しで喜んでもいいはずなのに、そんなの欠片も伺えない桐椰くんの表情のせいで、桐椰くんがその胸に抱えている感情が分からなかった。


「良かったね、桐椰くん」


 だから、さながら引導を渡すかのような気持ちで、精一杯の笑顔を手向ける。


「初恋の人、見つかったよ」


 桐椰くんの初恋の人は、優実だったと、優実本人の前でも宣言することで、しっかり桐椰くんの退路を断つ。隣の桐椰くんが弾けるように私を見たけれど、その表情に現れた感情なんて知りたくなかったから頭の中の情報処理を止めた。そのせいで、笑顔の裏で胸は少しだけ痛んだ。でも仕方がない、桐椰くんは私に感情を手向ける必要なんてないし、そんなことをしていても桐椰くんに得なんてないのだから。

 今日も、沢山の計算尽くの言葉を並べて、一つの後悔もなく、心の中だけで本音を吐露する。

 ごめんね。

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