第二幕、御三家の嘲笑



「じゃあ、雅は可愛いから好きってわけじゃないのか」

「まぁ……少なくとも今はそうかな」


 クラスにだって、可愛い女の子はまぁまぁいる。いる、けど、まぁ、それだけだ。俺が曖昧な返事をしたのが悪いのか、彼は益々怪訝そうな顔をする。


「じゃあどうなれば好きなんだ……」

「えー、そんなの分かんねーよ。だって理性がちゃんとした辺りから好きな子いないし」

「ふーん。じゃ、今度友達にでも聞いといて」

「いや、普通そんな話しねーから」


 そんな話をしたがるのはお前ぐらいだよ、と言いながら、俺もフライドポテトをつまんだ。少し冷めてて、塩の利いていないハズレだった。隣の彼は時々指についた塩を舐めてるくらいだから、どうやらアタリのようだ。

 その仕草に、ふと思い当たることがあった。


「あ、基準、あるといえばある」

「え、何?」

「キスしたいか、じゃね?」


 興味津々にこちらを向いた彼だったが、答えを聞いた瞬間に期待外れのような顔をした。


「……なんだそれ。基準になんの、本当に」

「なるなる。だってキスって好きじゃなきゃしねーもん」

「好きじゃなくてもできるって言っただろ、この間は」

「あ、あれ、俺そんなこと言ったっけ……」


 俺は弁解するように渇いた笑い声を出しているというのに、彼は無関心そうにフライドポテトを新たにつまんだ。


「言ったよ。俺が知ってるそういうことは、大体雅が教えたこと。男は好きじゃなくてもできるから気を付けろよ、って」


 ――そう。彼は、()じゃない。上着は脱いでいるけれど、同じ学校の学ランを着て、男みたいに胡坐をかいて、自分のことを〝俺〟と言っているけれど、本当は、女の子。

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