第二幕、御三家の嘲笑
どうして男の恰好をしているのかは知らない。どうして男を名乗っているのかも知らない。分かっているのは、俺が普段学校で目にする彼女と目の前の彼は、一見すれば絶対に同一人物だなんて気付かないということだけだ。顔は同じだけれど、雰囲気があまりに違う。そもそも、学校にいる彼女の顔を知っている人なんてどのくらいいるのだろう。いつだって長い前髪で顔を隠して、俯いて歩いている彼女の顔なんて、きっと誰も知らない。
だから誰も、彼が彼女だなんて気付かない。
「雅に言わせればキスだけは意味が違うってこと?」
「……まぁ、違うんじゃ……ない?」
「はっきりしろよ」
「だってほら……まぁ、キスって……その、するのに必要ないじゃん……?」
「ふーん、そうなんだ」
「あーっもうやめろよ! こんなこと教えさせるなよ!」
半ば慌てふためいている俺の気など知らず、彼女は薄く笑うだけだ。テーブルを挟んだ向こう側のテレビの中で誰かが喋っている、その音声と大差ないんだろう。
「安心しろよ。別に、そんなことで雅のこと嫌いになったりしねーよ」
「えー、いや、でもさー、なんかさー、ね?」
「意味分かんね」
ふん、と彼女は本当に興味なさそうに笑って、最後のフライドポテトを食べてしまった。やっぱり最後までアタリだったらしくて、その唇についた塩と、指先についた塩とを、ぺろりと舐めとる。
あぁ、ほら。そういう仕草が、女の子だって言ってんのに。
無性に、分からせてやりたくなって、彼女からは見えない拳をぎゅ、と握った。
「……じゃ、キスしてみる?」