第二幕、御三家の嘲笑
その台詞は、思わず口を突いて出た。気付いた時には当然音になっていたわけだし、聞いた彼女も「ん?」とこちらを向いた。声が震えてなかっただけ、幸いだ。いつものように――ハンバーガーとフライドポテトのせいでマスクはしていないけれど――笑ってみせる。
「俺とキスして、試してみる? 〝好き〟って感情が分かるか」
ほんの、冗談だった。
「名案」
「は?」
それだというのに、まさかの称賛で返事をされた。提案したこちら側が頓狂な声を出してしまった。それなのに、彼女は平然としている。それどころか、次の瞬間には口角を吊り上げた。
「雅がいいならいいよ」
試してみる?――そう言って弧を描いた唇が、びっくりするほど妖艶に見えて、距離を取りそうになるのを慌てて堪えた。
ちょっと、待て。気が動転している。お前は仮にも女の子だろ。キスに意味が見出せないなんて言うってことはお前はキスをしたことがないんだろ。女の子にとって憧れるものなんじゃないのか、それは――ファーストキスってものは。
隣に座る彼女は表情を変えない。戸惑っているのは俺だけだ。
「え……いや、お前……いいの?」
「なんで? 好きの意味が分からない、キスをしたいなら好き、ってことは、キスすれば好きが何なのか多少分かるんじゃないの?」
「だからお前はそれを知りたいがために俺とキスしていいのかって聞いてんの!」
「いいよ」
思わず大声を出してしまったのに、きょとんとなった顔は平淡な返事をした。言葉に詰まったのは、俺だ。
「雅が相手なんだから。意味がなくても別にいいし、意味があるならあるで別にいい」
……なんだよ、それは。