第二幕、御三家の嘲笑



 自分達以外に誰もいない家の、同級生の男の、部屋の中で。部屋の中を理由に上着を脱いでいる彼女の体の線はやっぱり細くて、女の子みたいだという第一印象を抱いた理由のままだった。テーブルとベッドの間の、人ひとり座れる場所にちょこんと座っている。本当に、ちょっと可愛いだけの男の子だと、誰もが思っている彼は、本当はこんなに小さい。本当は、ただの女の子。


「……本当にいいの?」


 どう考えても、逆だろう。何で男が女におずおず訊ねてんの。

 なんでお前は笑うの。


「なんで、いいよ。雅が嫌ならしないでいいよ」

「……俺は別にいいけどさ」


 さすがに胡坐はよろしくないと思ったのか、彼女はこちらを向いて体育座りをした。クロスしたせいで分かってしまう足の細さも、やっぱり女の子だった。

 そんな自分の容姿を知ってか知らずか、彼女は少しだけ俯いて目を閉じていた。降ろされた目蓋は、まるで眠りにつく覚悟はいつでもできているかのように静かだった。

 酷く、緊張した。おそるおそる触れた頬は、見た目より柔らかくて、知らず指先が震えた。目蓋を閉じたままの彼女は、ふふ、と笑う。


「くすぐったい」


 ――どうして、俺は、幕張匠の親友になることを選んでしまったんだろう。

 唇が触れたとき、彼女の前髪とか、鼻の先とかも、ほんの少し俺を掠めた。ついさっきまでフライドポテトを食べていたせいで、その味は塩味で、きっと彼女はファーストキスはレモン味なんて古来よりの冗談まで笑い飛ばしてしまうんだろう。

 余韻を感じてたのは、俺だけだったんだと思う。本当はテレビがついているのに静寂に満ちていると感じた、永遠にさえ感じたその二秒間は、彼女にとっては正真正銘たったの二秒間で、数えるにすら値しない時間だったんだと思う。唇が離れた瞬間に彼女は目を開けて、いつもの、少し憂いを帯びた表情で、ふ、と溜息を零した。


「……分かんね」


 ――どうして、幕張匠の、親友になってしまったのかな、俺は。

 でも、選んだのは俺だ。ゆっくりと座り直して、足を投げ出して、いつものように笑った。


「だろ? そんなもんだって」

「ふーん。試させて悪かったな、雅」

「いーって、別に」


 本当に、何も感じていないのは、彼女の横顔と態度から明らかだった。

 彼女を彼女としか見れなくなってしまったのは、俺だけだった。

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