第二幕、御三家の嘲笑
「亜季!」
「え?」
「は?」
久しぶりに会った彼女は、髪を伸ばして、女の子の恰好で、男二人に挟まれて帰るところだった。驚いて俺を見上げるその顔は、ちょっとだけ変わってた。
彼女は最初から普通の女の子だったけれど、本当に普通の女の子になっていた。もう幕張匠の面影なんてない。手を握れば、無理に木刀を握って豆だらけだった手でもなくなっていて、柔らかくて小さい、普通の女の子の手だった。
「え?」
「久しぶり、亜季! 本当に花咲高校にいたんだ」
本当は、亜季に会ったことなんてなかったから、久しぶりなんておかしいのかもしれない。
「知り合いか?」
「ううん、全く」
亜季の中に雅はいなかったから、俺の存在なんてないのかもしれない。
「らしいから、放しくれる?」
「やだなー、酷いじゃん、亜季。俺のこと忘れちゃったなんて言わないよね?」
亜季は、幕張匠でなくなったときに、雅の手を放したつもりなのかもしれない。
「あのー……」
「俺だよ、亜季。雅だよ」
だったら、もう一度繋ぎ直せばいい。
「……えっ、」
彼女は、もうキスが無意味だなんて思っていないようだ。キスされて驚いて、暫く唖然として、最後には手の甲とハンカチとで懇切丁寧にその唇を拭うときた。抱きしめながら本当は泣きたかった。彼女は、俺の手を放して、俺の手の届かないところに行っていたのだと知ったから。
二年ぶりのキスは、酷く寂しい味がした。