第二幕、御三家の嘲笑
計算不尽
「アウト」


 ピーッと高らかになった笛の音を聞いた瞬間、ずしっと体が重くなる。試合終了の合図を聞いて、体からは緊張感が抜けたらしい。まだコート内にいるというのに随分と気の早い体だと小さな溜息を吐いた。手首を返してラケットを持ち直し、ネット際に歩み寄る。ネットを挟んで相対した鹿島は、俺に対する気遣いなのか、それなりに疲れた様子を呈していた。


「インハイ経験者はやっぱり上手いね」

「御三家のリーダーに褒めてもらえるとは光栄だね。でもさすが、松隆は何をさせてもそつがない」

「あんまり褒められてる気がしないな。結局満点の結果は出せてないわけだし」

「確かに、桜坂の前で格好つけられなくて残念だったな」


 そう長々と喋るつもりなど微塵もなかったのに、思わぬ返事のせいで気が変わった。鹿島は笑っていた。


「……何の話だ」

「誤魔化さなくても。利用してただけの女子を好きになったって別に悪いことじゃないだろ」


 目を細めると、「ほら握手」と促され、渋々片手を差し出す。握られた手を握り返しながら、恨みのような疑念を込める。


「俺がしてるのはそういう話じゃない」


 手を離す。睨むような視線を向ければ、簡単な話だと言わんばかりに軽く肩を竦められた。


「知ってるヤツが少ないだけで、お前は数カ月前まで女を道具同然に扱ってたんだ。もう利用する必要ない桜坂を手元に置く理由はそれしかないだろ」

「道具」

「正確には、性欲と苦悩の捌け口」


 正確な意味を求めて反芻すれば正確な答えが返ってきた。だからこそ(しゃく)に障る。

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