第二幕、御三家の嘲笑
 シャワーを浴び終えると、脱衣所には見覚えのない化粧水が置かれていた。ついでに「髪を乾かす際はお声かけください」なんて癖のない綺麗な字の書置きがあった。きっとこの字は弓親さんで、間違いなく松隆くんが私は不器用だとか入れ知恵したに違いない。

 一時的に貸してもらえるという服は白い襟を筆頭に黒と白でまとめられたストライプ柄のワンピースだった。松隆くんのお母さんのものだというからもっと時代を感じるものだと思っていたけれど、そうでもない。

 服を着て、髪を適当にタオルで拭いた後。「あのー、」と扉の外に声を掛ければ、待機していた弓親さんがドライヤーと櫛とリボンを手にやってきた。そのまま鏡台の前に座らされて、ドライヤーで乾かされる。水浴び後の犬になった気分だった。

 ブォー、という音がしなくなった後、ゆっくりと櫛で髪をとかしてくれる手を追いながら、「松隆くんが言ったんですか?」と訊ねた。


「え?」

「私の髪です。松隆くんに頼まれたんですか?」

「えぇ、そうですよ」

「私はガサツだとか普段の髪が無惨だとか言ったんですよね、きっと……」

「お坊ちゃまと仲が良い証拠ですよ」


 否定されなかった。一体どっちを言われたのかは知らないけれど、初対面の弓親さんにそんなことを教えるなんて酷い。


「仲、良いんですかねぇ……」

「お坊ちゃまが新しいお友達を連れて来るなんて初めてですから」

「あの二人と私は別格ですよー」

「そりゃあ、遼くんと駿哉くんと……本当に小さい頃から、お坊ちゃまと兄弟のように一緒に育ちましたからね」


 本当は、透冶くんもその中に含まれているんだろう。弓親さんは、桐椰くんと月影くんをカウントしたけれど、それ以外がいないとは言わなかった。説明に遣われたのは、注意深く選ばれた言葉だったということだ。


「……この家、広いですね」


 なんとなく落ちた沈黙が気まずくて、口から出たのはどうでもいい感想だった。それでも、弓親さんは私の髪を結いながら「そうでしょう」と穏やかに返してくれる。松隆くんの穏やかさはこの人から来ているのだろうか。


「誰もいないんですか?」

「普段は、私達使用人以外はおりません」

「松隆くんってお兄さんいるんじゃ」

「栄一郎坊ちゃまは大学生ですし、アメリカで経営学を学んでおりますから」


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