第二幕、御三家の嘲笑
「……生徒会室で話をしたときに一回聞かれてはいるけどな、」
審判がスコアを渡すのは鹿島であって俺ではない。審判が駆け寄ってくる前に踵を返す。
「桜坂の前でその話したら、お前を今いる場所から引き摺り下ろすぞ」
表情は見えず、返答もなく。それっきり鹿島にその話を蒸し返すつもりはなく、ふぅ、ともう一度溜息を吐いてコートの傍のベンチへ向かう。今しがた口にされた名前の主がちょこんと座っていた。その隣に体を投げ出すように乱暴に座り込んだ。隣の桜坂は特に驚いた様子はない。
「……あの、リーダー、お疲れ様です」
「……あぁ、うん」
俯いて、視線を辿られないようにしながら、隣に桜坂がいることを確認する。
――別に、隠してはいない。透冶が死んだ後の、「自棄になってました」で説明するにはあまりに酷い日々。「死ね」と軽々しく口にしていた言葉が酷く生々しいものになってしまって、そんな言葉を遣うのに躊躇いを覚えるようになってしまった、そんなのはわりと最近の話で、透冶が死んだ直後は未だただの言葉だった。未だ、その言葉の意味が理解できなかった。もしかしたら理解できていたのかもしれないけれど、受け入れたくなかった。それは俺だけの話ではなく、やり場のない感情を三者三様に抱えてしまって、口を開けば必ず二人以上で喧嘩になった。いつの間にか喧嘩をするのが面倒になって、顔を合わせるのをやめて、そのせいで余計にフラストレーションが溜っているとも気付かずに、心を縛っている見えない事実から目を逸らし続けた。いつしか悩むのをやめたいと思うようになって、悩まずにいることができる方法を探した。それが喧嘩と女だっただけ。
喧嘩をしているときは考えなくていい。殴って殴られてしかない状況は思考よりも直感頼りで、気楽で、どこか爽快だった。だからそのひと時だけは言いようのない苦悩など忘れられた。意外と無駄だったのはセックスだった。自分の下にいる女の顔が自分の好みに近くても遠くてもあまり変わりはなかった。満たされるものなんて性欲だけで、それだけじゃ不十分だった。正確には、満たされたいのはそんな名前のついた欲じゃなかった。その欲の名前は分からないし、そもそも欲ではなかったかもしれない。だから、何度か繰り返したセックスに感じたのは鬱陶しさに近い苛立ちだった。いや――本当は、ずっと満たしてくれる〝相手〟を探していた。判然としないこの空虚な状態を誰かが満たしてくれると、心のどこかで希望を抱いていた。でも誰もいなかったから、毎日毎日希望しては失望し、希望しては失望しを、我儘に繰り返していた。