第二幕、御三家の嘲笑



 御三家と桜坂との間に恋愛関係なんて持ち込みたくない――そう偉そうに告げた自分を恥じた。反面、俺の言葉に慌てふためき狼狽してみせる桜坂を見て満足した。最初の桜坂だったら華麗にスルーを決め込むか、気の利いた冗談でも返していたはずだ。それを動揺するってことは、少なからずその感情が揺れたってことだろう? そんなことを一瞬で考えてしまった自分に少し驚いた。相手の言動の裏を考えてしまうのはただの反射と癖だ、と自分に言い聞かせた。

 それでも、校舎に向かいながら、それとなく遼の話を振って、ほんの僅か――さすが隠すのが上手だけれど――本当にほんの僅か、動揺して泳いだ視線を見逃さなかったとき。自分の思考は反射と癖だけで説明できるものではないのだと気が付いた。それに留まらず、瞬時にその答えは出てしまった。

 馬鹿みたいだ。そんなことは有り得ないと高を括っていた。だから遼のことを笑っていた。桜坂の言動で変わる遼の喜怒哀楽を見て笑っていた。笑う側だったはずだった。


「全く、馬鹿みたいだな、俺達は」


 好きになるつもりなんて、微塵もなかった。



「……ごめん、桜坂……」


 だからこの感情は、人生最大の誤算だ。

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