第二幕、御三家の嘲笑



 つい先日、本人に入れ知恵してしまったばかりの予想は、やはり正解なのだろう。寝ている彼女を眺める遼の気持ちはそれ以外にも考えられなくはないが……、無難な正解はやはり()だ。小さな溜息と共に後頭部を窓に預けた。……彼女に入れ知恵したときは、遼と距離をとればいいと本気で思っていた。彼女が遼に恋をするなど考えられなかったからというよりは、彼女が信用できなかったから。彼女は少しだけ総に似ているところがある。それは感情を上手に秘匿するところや、相手の言動を計算して会話するところや、自分に(まつ)わる過去をあまり語ろうとしないところ。総はそれでもいい、幼い頃から知っているし、昔から今の総だったわけでもないし、今の総がある理由もある程度察しはつく。総は総だ。だが彼女は違う。何も知らない彼女が何も語らない以上信用するわけにはいかない。彼女は何者か、俺達の誰も知らない彼女の裏が明るみに出るまで信用できるはずがない。だから、近付けるつもりがないなら近づけないでほしかった。

 過去系だ。それに気づいて瞑目する。


『桐椰くんを馬鹿にする蝶乃さんを、私は馬鹿にしてるよ』


 彼女が何者かは知らない。彼女がひた隠しにしている――はたまたただ言わないでいる――事実は、そう取り立てて問題にする必要などないことだった。ただし、今自分が知っている事実が彼女の隠す事実の全てだとしたら、という仮定の下で。その仮定の正否はまだ分からない。だが、数日前の言葉に免じて、彼女のことは暫定的に信頼するとしよう。

 目を開けると、遼はまだ彼女を眺めていた。飽きもせずよくやるものだ。知りたいことは分かった上に彼女に疑いの目ばかりを向ける必要もない以上、此処で無為な彼の行動を見ている必要はない。それこそ無為だ。そう思って校舎を後にしようとし――教室内にいる遼と目が合った。

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