第二幕、御三家の嘲笑



「…………」

「…………」


 無言だったが、遼の顔はみるみる赤く染まっていく。その口が「オマエ!」と動いている。慌てながらも静かに立ち上がった遼は中から出てくると入念に扉を閉めた。次いでその手に胸倉を掴まれる。


「テメェいつからそこにいやがった……!」

「わざわざ時間など見ていないが。俺が来たときは桜坂はお前のパーカーを抱えておらず、お前も桜坂の頬に触れるに留まっていたな」

「最初ッから見てんじゃねぇよ!」


 最初だったのか……。確かにあれほどの無意味な行動を長時間とっていたら脳外科か精神科を勧めていたところだ。そのまま遼に引きずられるように校舎の外に出た。その額には青筋が浮かんでいるが、筋違いも(はなは)だしい。


「見られたくなかったなら周囲をよく確認したらどうだ?」

「覗き見してるなんて思わねぇだろ!!」

「覗かれて困ることを第六西でするんじゃない」

「こっ……まんねぇよ! 何もしてなかったの見てたんじゃねーのかよ!」

「お前が桜坂の頬に触れパーカーを被せ頭を撫でたのは見たと言っただろう。誰もお前が桜坂にいかがわしい真似をする様子を見たとは言ってない」

「ぐっ……くっ、お前本当ッ……!」


 怒りか焦りか……、はたまた図星か。その顔はまだ赤くなる。耳まで赤くなったその顔を呆れた目で見つめながら、胸倉を掴んだままのその手を外した。


「次はきちんと確認することだな。確認しても常識的によろしくないことは控えてほしいが」

「だからさっき何もしてなかっただろ! あと今の絶対総に言うなよ!!」


 きっと彼女が起きるのを待って家まで送る予定だったのだろう。暇を持て余してしまった遼は紅潮した頬と感情を一生懸命隠そうとするようにその髪を触っている。

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