第二幕、御三家の嘲笑
「桜坂が好きなのか?」
「は!?」
が、直截的に訊ねればそんな誤魔化しなど無意味だ。素っ頓狂な大声が答えだ。
「お、お前、何言って、」
「俺は訊ねただけだから肯か否か答えればいいだろう」
「いや、だから……、」
「肯否を答えたくないといのなら別に構わないが」
そもそも否だと言えない時点で……と言うのはやめておこう。年齢不相応に素直過ぎる幼馴染をからかうのは一日何回までにしようと総と笑ったことがあるくらい楽しくてやめられないが、やめておこう。
「初恋はどうした」
「……お前めちゃくちゃ食いつくな。興味ねぇこと訊くんじゃねぇよ」
「興味のないことを聞くほど俺は馬鹿ではないが?」
遼の目は泳いでいる。興味というと語弊があった。興味本位ではなく、純粋に疑問なのだ。遼は、初恋をもう思い出にしたのだろうか、と。
「……それは……別に、その……」
「諦めたのか?」
「諦めてはない。……けど、なんつーか……」
今までの態度とは打って変わってはっきりとした返事に驚いた。桜坂が好きだが初恋を忘れたわけではない、と。
「お前の探すその初恋の相手がいま目の前にいたらどうする」
「いや有り得ねぇだろ。目の前にいるのお前じゃねぇか」
「頼むから馬鹿な返事をしないでくれないか? 話すべきことが余計に増えるのは面倒だ」
「……別に……、」
遼が二股を掛けられるほど――好きな相手を複数人持てるほど――器用でないのは知っていた。それなに言い淀むということは、どういうことか。桜坂を好きなのはおそらく事実だというのに、初恋も諦めてはいない。……仮に前者が間違っているとすれば話は簡単だが、前者が間違いないとすれば、それが意味することは一つだ。そしてその一つの答えを、遼は口に出せないから口籠っている。
少し考え込んだ。それは面倒といえば面倒な話だが、遼にとってはそれほど悪い話ではない。