第二幕、御三家の嘲笑



「遼」

「なんだよ、口止め料かよ」

「くれるというなら貰っておくが、そうではない。総は反対するかもしれないが、俺は特に興味はないから好きにしろ」

「……あ?」


 一体何の話だ、と遼は眉を顰める。分からないなら特に説明する必要はない。そして俺は彼女を送る義務がない。元々日課として第六西に立ち寄っただけで用事もなかったので、帰宅しようとそのまま踵を返す。


「じゃあ、また明日な」

「……おう」


 総はぼやいていた。遼が桜坂を好きになると面倒だ、と。透冶のことを知りたくて迎えただけの女子に特別な感情を持つのは非効率的だ。好きに利用し、邪魔になれば切り捨てるべきだ、それを躊躇(ちゅうちょ)させる感情など要らない。遼にこそ伝えなかったが、総は最初からそのつもりだった。冷酷無慈悲と言っても過言でないほどの在り方は、昔からあったものではなかった。……透冶のために一番歪んだのは、きっと総だった。それだというのなら、透冶のことが分かった今、総は同じことを言うだろうか。少なくとも生徒会の制度に何の変化もない現状、桜坂を好きにならないでおくことが合理的な手段だろう。

 ……とはいえ、わざわざ遼の恋路を邪魔するほどではない。幾分(いくぶん)困るかもしれないが、その困難は遼の感情を潰す必要があるほどのものではないだろう。仮にあるとしても、他人の感情を(むし)り取るのは気が引けるから、しないでいいならそれにこしたことはない。

 そもそも、遼の初恋の相手が桜坂だったなら、きっと総も仕方ないとは思うだろう。

 だから何も見なかったことにして、今日の出来事は総には黙っておこう。そう決めて、日陰を選びながら帰路についた。
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