第二幕、御三家の嘲笑

(二)侵略者

 第六西の扉を開けると、ソファで桜坂が寝ていた。廊下から見て気付いてはいたので、静かに開けた扉を静かに閉める。臙脂の眼鏡はサイドテーブルに、鞄は足元に置かれて、桜坂自身はパーカーにくるまるように眠っていた。そう、パーカーにだ。桜坂が着ないパーカーに桜坂がくるまっている。


「……かっこつけやがって」


 この部屋に置いてあるパーカーなんて遼の物以外にないし、そもそも寝ている桜坂に何かをかけてやろうなんて気の利いたことを駿哉がするはずもない。はぁー、と深い溜息と共に鞄をおろし、肘掛に座った。


「桜坂、起きて」


 声をかけるけれど、起きる気配はない。それどころか余計に縮こまる始末だ。ただ縮こまるなら好きにすればいいが、遼のパーカーを抱えているときた。お陰でどこか幼稚な苛立ちを覚えてしまう。


「……桜坂」


 その頭に触れて軽く、本当に軽く揺さぶるけれど、返事はない。寝言すら言わない。

 桜坂は第六西でよく寝ている。それも決まってベッドではなくソファの上で。家で寝れないのかと訊くと「そうなんだよー」と視線すら寄越さない適当な返事をされたことがあったので、以来訊ねたことはない。でも本当に……、よく寝ている。家で寝ていないのかと訊ねたくなるくらい、頻繁に、そして長く。

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