第二幕、御三家の嘲笑
 ふぅん、そうなんだ。これだけお金持ちってことはお父さんは仕事で国内外問わず飛び回っているのだろうし、その奥さんとなればお母さんも忙しいのかもしれない。


「じゃあ、松隆くん、弓親さんがいなくなったら寂しくて泣いちゃいますね」


 桐椰くんならまだしも、松隆くんなんて全然そんなタイプには思えないけれど、なんとなく口をついてでてしまった。どうしてか、弓親さんの手が一瞬だけ止まった――気がした。

 あれ、と視線を向けるけれど、その時にはもう指は器用に私の髪を編みこんでいる。


「遼くんと、駿哉くんがいますから。お坊ちゃまは大丈夫ですよ」

「そうですね」


 誤魔化された。松隆グループのお坊ちゃまの家は、予想通り、ただの恵まれた家ではなさそうだ。そういえば第六西にあるベッドは松隆くんの家出用だって聞いたっけ……。この家にはきっと、時々どうしようもなく逃げたくなるときがあって、物分かりの良い松隆くんは、きっと逃れられないことを理解(わか)ってるから、物理的な逃避なんて現実逃避をするんだろう。

 ……私と松隆くんは、どこか似ているのかもしれない。


「はい、できましたよ」

「あ、ありがとうございます」


 その声で我に返れば、いつものぼさぼさ頭はなくなっていて、軽くウェーブしたセミロングの髪に赤色のリボンが編み込まれていた。まーた桐椰くんと月影くんに馬鹿にされそうだ、お前の顔は相変わらず詐欺だとかなんとか。

 自分の顔なのにしげしげと鏡を見ているのが面白かったのか、弓親さんはくすっと笑った。


「普段はあまり気にしていらっしゃらないんですか?」

「……そうですね」

「ちょっと工夫したらとっても可愛い髪型になりますよ。いい癖毛ですから」


 その言葉で、つまんでいた髪を離した。


「……あの、松隆くん達はどこに……?」

「ご案内します、こちらへ」


 早々に会話を切り上げたものの、向かう先が分からない。弓親さんが案内してくれるのはありがたいし、というか案内がなければどうにもならないけれど、弓親さんと二人はできるだけ避けたくなった。そんな気持ちが伝わってしまったのか、歩きながら喋るのを良しとしないのか、弓親さんは無言で歩いてはいるけれど。

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