第二幕、御三家の嘲笑



「桜坂、起きろよ」

「んー……」


 遼がいつも遊んでいるように、その頬を引っ張った。クラスマッチの日にも思ったけれど、その頬は柔らかくて触り心地がいい。遼が頻繁に頬を引っ張ってじゃれている理由も分かる気がした。ふに、ふに、とその頬に軽く触れながら『いま起こしてるから。起きればいいだろ』と片手でLIMEに付け加える。その隙に、眉間に皺を寄せて寝言のような返事をした桜坂の目蓋が震えた。手を退ければ、その目はほんの数ミリ開き、すぐにぎゅーっと強く瞑られる。そのまま体のストレッチでもするように、彼女はぐっと腕を伸ばした。


「んー……おはよ……」

「もう夕方だけどね」

「そっかー……」


 起き上がった桜坂は目蓋を擦る。眼鏡を外すと目が大きい。眼鏡を外した顔を見慣れていないせいで、その顔をとっくり眺めてしまった。蝶乃なんかはブスだブスだと罵るらしいが、眼鏡を外して髪を整えれば、ちゃんと可愛い顔はしている。遼は俺の美人ハードルが低いとよく言うので一般的に可愛いかどうかは知らないけれど、少なくとも十人並みよりは少し上だと思う。


「……いま何時?」

「六時前」

「そろそろ帰ろうかな」


 ぐっと、今度は天井に向けて背伸びをしてみせる。拍子に緩んだ胸元を見れば、リボンはないわ、ボタンは二つ開いてるわで黒いキャミソールが露わになっていた。無防備なその姿もすっかり見慣れてしまった。慣れないけれど。

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