第二幕、御三家の嘲笑
「……桜坂、ボタンもう少し留めたら?」
「んー? どうせ見ないじゃん」
「いや、見てるけど」
「どうせ何もしないじゃん」
「何かしてほしいならするけど」
「やだよー、松隆くん絶対変態だもん」
え、なんでそんな評価与えられてんの? 心外な物言いに顔が引きつった。だが俺の様子に構わず、桜坂はきょろきょろと辺りを見回す。当然、ソファの背もたれにかけてあるパーカーをすぐに見つけ、指し示すように引っ張った。
「桐椰くんいたの?」
「みたいだね。俺が来たときはいなかったけど、桜坂がパーカー被って寝てたし」
「……いま私がパーカーを被ってなかったのはなんででしょう、リーダー」
「やらしいことしてやろうかと思って剥いだ」
「ほら! だから松隆くん変態だって言ってるじゃん!」
不愉快だったから、とは言わないでおく。笑顔で冗談を言えば、冗談だと分かっている彼女はすかさず俺から距離を取る。お陰で隣に座るスペースが出来て、そこに座り込んだ。普段は遼の定位置だ。もっと近くに座ることになると思っていた距離は存外遠い。なるほどね、なんて肘掛に頬杖をついていると、なぜか桜坂はじっと俺の足を眺めた。
「……何?」
「松隆くん細いなぁと思って。体重何キロ?」
「あー、どうだろ……夏になって痩せたから。今は六〇キロ切るくらいじゃない?」
「身長一七〇センチはあるよね?」
「代わりに背は伸びたから、今は七十三、四くらいあるかな」
「細いなぁ……」
体も薄いもんなぁ、としみじみと眺められる。でも駿哉のほうが細いだろうし、世間的にも細すぎるわけでもないし、遼と比べてそう思うだけなんじゃないかと思う。