第二幕、御三家の嘲笑
「まぁ足は桜坂より細いかもしれないね、下手したら」
「失礼な! ……っていうか私の足って」
「だから見えないように寝ろっていつも言ってるだろ」
「変態……」
「理不尽にもほどがある」
スマホを見ると『起きねーよアイツ』『何回か声かけたし』と返事が来ていた。『いま起きた』と返すと『なんで俺のときだけ起きねぇんだよ反抗期かよ』と、アイツの立ち位置に首を捻りたくなるような返事がきた。それに何て返事をしようか考えっていると、ひょいと桜坂が俺の手元を覗き込む。あまりの近さに体が反射的に引いてしまった。寝癖でふわふわと浮いた髪が喉をくすぐる。くすぐったい。桃の香りがする。その細い腰に手を回したくなる……。
「桐椰くんって何ポジションなの?」
「さぁ? 訊いてみたら?」
アイツをからかうネタが出来たと思ったのか、桜坂は屈んで鞄の中を探り始める。お陰で動きかけた手を慌てて引っ込める羽目になった。スマホを取り出した桜坂は素早く文字を打ち込んでいた。
「……文字打つの早いね」
「女子高生っぽい?」
「桜坂の場合は相変わらず隙がないなぁと思うよ」
「相変わらず松隆くんは騙せないなぁ」
暫くして、御三家LIMEに遼から返事が来る。画像が送信されていた。タップして拡大するまでもなく、桜坂からの連絡のスクリーンショットだと分かった。『桐椰くんの声が優しいから起きれなかったー』『パーカーかけてくれるなんて優しいね!』『今日はシトラスの香りだね!』『桐椰くーん?』『私には返事してくれないのー?』と案の定からかうネタが投下されている。続けて『くそうざいんだが』と付け加えてくる。どうせうざいなんて思ってもない癖に、と笑ってしまった。俺が笑ったせいで返事があると気が付いた桜坂が、再び俺の手元を覗き込む。